踏みしめて

 カメのように一歩一歩しっかり踏みしめて、前へ進んで生きたいな、と思ってます。

経済と家庭は対極にある

 なんと、がんになってしまった田端さん…。いったいどう克服するのでしょうか?


 北川 そんなにお若くして……。何がんだったのですか。
 田端 胃がんです。いまにして思えば、それもまた自分の考えを練り上げる一つのきっかけになりました。
 医者からは即刻入院と言われましたが、働いている子たちは私がいなくなったら一触即発の状態でしたから入院はできない。通院でお願いしたいと言っても、それはどの病院も受け付けてくれなかったんです。
 そんな時、ある方を通じてご紹介いただいた僧侶がいました。その方は「確立は二分の一だけど、勝負かけてみますか」と。それでその先生の言うとおりに先祖供養をして、観音寺めぐりに同行させていただいて、漢方を服用しました。そうしたら、半年後にはがんは消えてなくなりました。
 北川 観音寺めぐりはどこを回られたのですか?
 田端 秩父、西国、坂東、全部回りました。がんが消えてからも回っていましたから、秩父の観音寺は四回、回りましたよ。
 いまにして思うと、がんは神様が私に目に見えないものの存在を気づかせてくださるためのきっかけだったと思うんです。
 それによって何が他に芽生えたかというと、これまでの人生に対する自責の念、いままでの生き方や考え方に自己嫌悪の念が生まれてきたのです。お寺に行くたびにわけもなく涙が溢れて止まらないんです。
 そうなるともう事業には興味がなくなってしまって……。
 北川 たたんでしまわれた?
 田端 いやいや、若い子たちを食べさせていかなければいけませんからね。少しずつ彼らに仕事を任せ、三十歳になった時点で資本を東京と熊本に分けました。少しずつ阿蘇に近づいて、十年前にやっとここの土地に落ち着いたのです。
 しかし、祈りある質素な暮らしがしたいとか、土いじりをしながら物づくりをして暮らしたいとか言い出したら、前の妻とは離婚になりました。以前の価値観で結婚していたわけですから、それも当然でしょう。
 いまの妻はいまの私の価値観で結婚していますから、十三年間愚痴一つ言わずにやってくれています。いまの私の一番の励みは、どんなに貧乏になったとしても家族がついてきてくれるという絆です。 最近、経済と家族の絆は対極にあると思うんです。いまの私たち家族の目標はいかにお金がかからない生活を実践するかですが、贅沢をするとどおしてもお金を稼ぐことに時間をとられ、家族の絆はバラバラ、そして病気にもなる。お金のかからない生活は家族と一緒にいられる時間がたくさん取れるし、思索に費やすこともできる。
 北川先生は御著書などで、地位とか財産とか名誉とか全て捨てると楽になるとおっっしゃっていますが、私も同感です。この賢人塾だってなくなったらそれはそれで、維持する労力がいらなくなって楽になるじゃないかとさえ思える。捨てると楽になって、強くなる。それが私の実感ですね。


今日はここまでの紹介とします。次回は「捨てると強くなる」というタイトルで紹介します。
 


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