踏みしめて

 カメのように一歩一歩しっかり踏みしめて、前へ進んで生きたいな、と思ってます。

災害ボランティア2

災害ボランティア2
 「全国初」を次々に打ち出す災害ボランティア

 特定非営利法人ふくい災害ボランティアネット
 理事長   松森 和人 氏

前回 「災害ボランティア1」

福井豪雨災害で見せた福井県の変貌


 福井豪雨災害が起こったのは、静岡・山梨における実地研修の翌月のことだった。平成16年7月の発災当日、福井で連絡会が緊急開催され、災害ボランティア活動を支えるための福井県水害ボランティア本部の設置が決定、翌日には現地本部が開設された。松森さんはセンター長として陣頭指揮に当たった。

 この時松森さんは、14日間、6万人、1億円という三つの数字を即座に弾き出した。それぞれボランティアの活動期間、参加人数、そして予算である。松森さんは直ちに知事に1億円の予算を要求、知事も即座に専決した。

 こうしたボランティア活動を財政的に支えたのは、ナホトカ号事故の際に全国から寄せられた義援金を基金資源とした「福井県災害ボランティア活動基金」であった。

 14日間とは、被災者が自力復旧に集中し続けられる限界の期間である。これを過ぎると、過労で倒れる被災者が出てくる。そのために必要なボランティアの員数は6万人。

 何故6万人か。根拠は愛知県の東海豪雨にあった。東海豪雨でボランティアは一世帯に対し1人の割合だったが、必ずしも十分だとはいえないと感じた松森さんは、一世帯あたりの必要人員を3人と見積もった。福井の被災世帯数は1万。したがって、必要員数は3万人。しかし、松森さんはこの3万人を更に2倍にした。東海豪雨が秋だったのに対し、福井豪雨は真夏であったからである。真夏の体力消耗は倍加する。

「読みは気味が悪いほど的中しました。実際には6万280人のボランティアが集まりました。」

 保険はボランティア1人当たり500円で計3,000万円。資機材が1人当たり1,000円で計6,000万円。予備費を加え都合1億円と見た。実際は8,000万円で済んだ。

 各被災地域に設置された市町村センターは大小取り混ぜて10に及んだが、それらの各センターは、県に置かれた災害ボランティア本部が一元的に統括し、ボランティアの派遣地域の調整、資機材の調達・補給などを一手に引き受けた。資機材の調達は石川県や京都府など県外にも手配できる用意はできていた。

 各市町村センターが必要な資機材のリストを県本部に送ると、県本部が一括して発注、必要なものが1日待たずに納品された。「手ぶらでいい、バンバン来てください」と松森さんらが全国のボランティアに呼びかけることができたのも、松森さんらがモノとカネの心配が一切いらない仕組みを作り上げていたからである。これで、各市町村センターは現場で被災者と向き合うことに専念でき、復旧のスピードは飛躍的に上がった。

 こうして14日間が過ぎると、被災者からのオーダーはとまった。6万人、1億円の大事業は無事に幕を下ろした。ナホトカ号事故から8年、福井県はすっかり変わっていた。

未曾有の制度創設へ


 福井豪雨災害から3ヵ月後、県は共同の理念に基づく災害ボランティア活動の重要性を広く全国に発信すべく、全国初となる「福井県災害ボランティア活動推進条例」の制定に乗り出し、翌平成17年3月に成立、4月から施行した。松森さんは、条例づくりのために設置された「災害ボランティア活動の推進を考える懇話会」のメンバーとして参加、現場の立場から条例づくりに参画した。

 条例の特徴は、平常時の災害ボランティア活動を保障している点にあり、教育や研修機会の充実、専門知識を有する人材の育成、情報の収集・分析、調査・研究を行うことを定めている。注目されるのは、県外における県民の災害ボランティア活動への支援(バス等の移動手段の確保やボランティア保険への加入等)を規定していることである。「この条例で福井豪雨の成果をシステムとして担保できた」というのが松森さんの評価である。

 しかし、松森さんには「これができないと完成とはいえない」という課題が残っている。ボランティアの身分と収入の保障である。「ボランティアには、会社が休みの土・日曜や有給休暇を活動に振り向ける人など様々。しかし、中枢を担う人材は、もはやボランティアではなく業務です」と言い切る松森さんは、次のように切実に訴える。

「県対策本部が立ち上がるような大規模災害にひとたび参加すれば、1~2ヶ月ほど拘束される。その間、災害復旧以外のことが全くできない。そうすると……食えない。」

 ボランティア=無償という意識は根強い。災害ボランティアに参加したことで仕事を失った人も多い。ボランティアの犠牲の上に成り立つ活動は続くわけがない。

 そこで、松森さんが目指すのが有償災害ボランティア制度である。「ボランティア全てを有償化するわけではないのです。災害時に絶対に必要な能力を持った人材に対しては、行政がその人の生活を保障した上で確保する。そうすれば、安定的な災害サービスの供給が図れます。」

 その有償ボランティア制度を支えるものとして松森さんが構想しているのが、県による認定災害ボランティアマスター制度だ。

 同制度は、論文・実践両面から特定基準を設け、検定試験を通過した人を、県が災害ボランティアマスターとして認定するというもの。県の認定を受けた人は協会に登録し、更に指導者として能力に磨きをかけて行く。そのために、松森さんは今、実地訓練を含めた研修カリキュラムを整え、来年度の実施に向けて県に提出している。

 このような制度は他県にも前例はない。しかし、松森さんは愉快そうに笑いながら言う。
「私たちは新しい試みにどんどん挑んでいく。でも、県は全国どこにも例がないからやらないと言う言い訳はもう使えない。なぜって、条例の前文に『災害ボランティア活動の先進県となる』と書いてあるのですから。」

自主防災アカデミーの夢


 認定災害ボランティアマスター制度とともに松森さんが今精力的に取り組んでいるのが、自主防災組織の育成である。福井県では今、県の呼びかけにより、町内単位での自主防災組織づくりが進められている。しかし、松森さんは「組織をつくってみたものの、何をやっていいかわからないところがいっぱいある」と指摘する。

 そこで、こうした自主防災組織を有効に機能させるため、松森さんは各地を回って年間100回ほどの研修を精力的にこなしているが、1人で全県を回ることに無力感も否めない。
「休日を全て返上して組織育成に汗をかいても、年間でせいぜい100ヵ所。県ではこうした防災組織を数1,000単位で作ろうとしているのだから、とても追いつかない。

 そこで構想しているのが自主防災組織のアカデミー設立だ。防災の基本的な考え方からリーダーに求められる能力、避難所の設置や運営の仕方等々を教える学校を作る。できれば県に学校設立を促し、それぞれの自主防災組織が講習を受けに来るスタイルを描いている。今はカリキュラムを練り、関係部署と協議を重ね、来年度はNPOの自主事業としてデモンストレーションを試み、再来年度の実現を目指している。

 最後にコーディネーターに一番必要な能力をたずねると、「深く聞くこと」と返ってきた。
「人の中にはいっていき、話を深く聞く。そして、その人の抱えている問題について夜も眠れないほど悩みに悩んで考える。すると出るのです、解決のアイデアが。教科書で学べることではありません。」

 彼をそこまで駆り立てる原動力は何なのか

「被災者の方から、手を握って涙ながらに言われる「ありがとう」です。これが聞けたら、つらいことはいっぺんに忘れてしまいます。」
 満面の笑顔でそういう松森さん。

「ただ、本部にいると、行政から感謝状はもらえても、被災者からの『ありがとう』が聞こえてこないんですよ」――この瞬間だけ、松森さんの笑顔に寂しさがにじんだ。

終わり
 

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