踏みしめて

　断食ってすごいですね！　断食以外にも、目の前に現れた大きな壁を乗り越えようとする時に、何かに気づき前が見えてくる時があります。断食はあえて自分で自分の目の前に巨大な壁を作り、それを乗り越えることによって、いままで壁と思っていたものを思わなくさせてしまう。
　更に北川さんは、二度目の断食をすることによって、人の壁までも小さくさせて、悩める人を助けようとしている。　すごいですね！

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　北川　いま私のところには心身に深い悩みを抱えた方がいらっしゃいますが、結局いま田端さんがおっしゃったように、辛いこと、失敗や悲しみはすべて自分の学びであり、それによって心が養われると気づけるかどうか。嘆いたり文句をいったり人のせいにしないで、自分に投げかけられるすべてを大切にしてほしいと皆さんには伝えています。
　それから人を許すことを覚えていってほしい。結局生きるとは補い合うことですよ。この前も職場で対立しているという相談を受けましたが、働くとは互いに補い合い、“傍を楽”（はたをらく）にすることです。職場に来て自分の評価を上げることだけ考えていたり、自分だけ休みを多く取ろうとしたり、そんなふうに自分のためだけに働いていたらなんと空しい人生よと思いますね。職場は仕事を通じて対人関係や社会の難しさを学べて、自分の心を養いレベルを上げる最大のチャンスの場です。
　ただ、間違えないでほしいのは、仕事も健康も人生においては同じレベルなんですね。仕事だけが人生でもいけないし、健康だけ目指して働かないのもいけない。
　田端　おっしゃるとおりですね。私も一応事業で結果を出したり、がんを克服したりしているから、皆さんそういう話を聞きに来る。でもその人たちの話をよくよく聞くと、本当は金持ちになりたい、健康になりたいのではなくて、幸せになりたいんだと思うんですね。
　私は幸せを「福・禄・寿」で勝手に定義しているのですが、福はコミュニケーション。対人関係とか、自分の身の回りの環境との調和。禄はお金とか物、財産。寿は健康です。この三つがほどよくバランスの取れた状態が幸せなんじゃないかと思います。いくら健康でも孤独で借金抱えていたら幸せじゃないし、いくらお金があってもいつも具合が悪くて、家族から尊敬されず嫌われていたら幸せじゃない。
　それにはやはり自分の中に欲望を加減することのできる調和の心、人と和合する大和心がなければならないと思います。その大和心が中心軸としてしっかりしていれば、偏ったりぶれたりせずバランスが保てると思うのです。
　北川　私の場合、若い頃は目に見える確かな形としての幸せを求めていましたが、だんだん形のないもの、目に見えない幸せを求めるようになってきました。例えば「やった！」とか「美味しい！」「楽しい！」という、一種の快楽から得た喜びは長続きしないんですね。人の喜びや大自然の大いなる力に接すると、静かなる充足感が持続するんですよ。そういうエネルギーはいつまでも続く。
　でも、見えない幸せを求めるのもまた、田端さんがおっしゃるように自分の中心軸というか、「芯」が大切だと思いますね。人間は弱いですから芯がしっかりしていないと、すぐに目に見える物による幸せに流されてしまいます。だから私は養心というのは、「養芯」なんじゃないかと思いますね。
　田端　ああ、なるほど。また、そういう芯がしっかりした大人が子どもの心を養うのだと思います。子どもたちは賢人塾にいる間、素直な心と生命力を取り戻し、目をきらきら輝かせていますが、家に帰るとまた元に戻ってしまう。子どもの心を養おうと思ったら、結局はまず大人の心を養わなければダメだというところへ行き着きます。
　北川　形あるものを求めると心の芯はできません。その時々の損得の世界へ入ってしまい、苦しみ、悲しみ、対立、争いごとに憂慮し続けなければならなくなってしまう。形なきものの存在の大きさ、エネルギーの強さ、安らぎと大いなる平和感というものを、ぜひみなさんにも感じていただきたいと私は思います。心を養い、生を養う道がそこにあると思います。

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　以上で対談の紹介を終了します。どうでしょうか、田端さんのことが少し分かったでしょうか？　この対談に登場する北川さんという人物にも、新たな興味が湧いてきた人もいるでしょうね。
　いずれにしても、現代社会が生み起こす心の病を治療する先生が、世の中にはちゃんといるということなんですね。「日本もまだまだ捨てたもんじゃぁない！」