―広範なまちづくりの可能性―
(株)三井物産戦略研究所
国土・地域振興室
室長 園田 正彦 氏
食によるまちおこしの流れ
「梅栗植えてハワイに行こう」をキャッチフレーズに全国展開した一村一品運動の中に、戦後の、食によるまちおこしの起源があったのではないか。住民一人ひとりが知恵を出し合い、技術を磨き、特産品を生み出す中で、連帯感と豊かさが実感できた。
その後、ご当地グルメに代表される新名物料理や郷土料理のリニューアルが注目を集めた。代表例として、宇都宮餃子・舞鶴肉じゃが・駒ヶ根ソースカツどん等が続く。そしてイタリアからスローフード運動が日本に上陸しスローブームを起こし、地産地消とともに、それらの理念が浸透していくことにより、食によるまちおこしの厚みも増していったのである。
平成17年7月に食育基本法が施行されてからは、その流れも本格的かつ複合的な視点へと移行していく。
食にターゲットを置く目的・意義
食を起点として振興が図られる効果として、農林水産業や観光の振興、健康増進や福祉の充実、教育等が考えられるが、それらに加えて地元食品産業の発展や地域住民参加によるコミュニティビジネスの展開など経済分野まで含めた幅の広いスケールに広がっていく。
食は、今後政府が強く推進しようとする国民的課題である。教育・社会保障・少子化問題・高齢化対策などとも密接な関わりがあり、食によるまちおこしにこれら課題を組み合わせることにより、先進的試みとして期待されるのではないか。そのことこそが、食育本来の価値であり、そこに食にターゲットを置く意義があるのではないか。
小浜市の取り組みとそのポイント
平成13年9月、「御食国」としての歴史を生かした「小浜市食のまちづくり条例」が制定された。食を入り口に「食べるだけ」ではなく、調理・食材・塗り箸生産など広範なまちづくりが展開された。また、市民との連携が図られ、食が育まれる水・森・川・海・田畑等、豊かな環境を守ることも進められた。まさに「ないものねだり」から「あるものさがし」のまちづくりが始まったともいえる。
小浜市の歴史、環境、食材更には人材までも掘り起こすこの食のプロジェクトの最終目的は、住民一人ひとりが、かねて持っていたであろう「御食国」としての誇りを今一度取り戻すことにあるのではないか。もし、プロジェクトが進み、住民が自信と誇りに手ごたえを感じたなら、その瞬間から、このプロジェクトは品格を備え永続性を持つことになると思われる。
幼児体験教室「キッズキッチン」
小浜市の食のプロジェクトの中で最も注目を集めている取り組みを紹介しよう。
親は見守るだけ、一切の口や手を出さず幼児の手だけで全ての作業をこなし、単に料理の方法や手順だけでなく、食文化、マナー、協力し合うこと、約束を守ること、他人を思いやることなど社会の中で生きていくうえで大切なことを総合的に学べる体験型料理教室「キッズキッチン」がそれである。
いまや小浜市にとどまらず、北陸、近畿一円から参加の申し込みが殺到するほどの人気教室になっている。
もともと小浜市の食育文化都市宣言(平成16年2月)の一項目であったキッズキッチンが食育基本法成立後に注目を集め、マスコミに取り上げられたことがきっかけとなり、全国から視察が訪れることとなった。「地域に根ざした食育コンクール2003」においても、特別賞を受賞した教室である。
キッズキッチンの効果
この体験型キッズキッチンを経験した多くの子供たちが食べ物の好き嫌いが少なくなったり、以前より食に関心を持つようになったりすることはもちろんであるが、それ以上の大きな効果として、子供たちが協力し合いながら同じ目的に向かって作業することで、協調性が生まれ、物を創り上げる行為を通じて物事をやり遂げる自信や達成感を醸成することにつながることもわかってきた。
また、子供たちを取り巻く大人たちにも変化が見られる。子供たちが普段と違う顔つきで一生懸命努力する姿に心を打たれ、改めて子供が「伸びようとする力」に驚くのだ。そして、食は「体」だけでなく「心」の成長にも大きく関わる重要なものであると認識を深め、家庭においても食を大切に考えるきっかけになるように思う。
キッズキッチンに参加した子供たちの成長する姿は周囲の大人たちの心を動かし、更に家庭における食環境や人間関係まで変化させる力がある。
平成17年9月に、「キッズキッチン協会」が設立されたこともその証である。
小浜市の「食によるまちづくり」の評価
食のまちづくり条例の制定(平成13年9月)→生き生きまちむらづくり→食育文化都市宣言(平成16年12月)→生涯教育と、小浜市の食によるまちづくりは時代のステージに合わせて着実に前進し、それを取り巻くプロジェクトも数多く実施され、裾野の広がりを見せている。各種プロジェクトの波及効果やプロジェクト同士の相乗効果も現れており、今後ますます地に足のついた発展が期待でき、地域内外を問わず小浜市の評価が高まると思われる。
特に教育と少子化問題、更には家庭の絆を絡ませたキッズキッチンの評価は極めて高く、小浜市の食によるまちづくりの発展に大きく貢献するものと思われる。
食によるまちづくりの今後
食は、人が命を授かった瞬間から老いていくまでの生涯を通して、最も関係の深いものであり、食をテーマに取り上げることが容易に考えられる。地元食材で特産品を作る、地産地消を推進する、食生活を改善するなど事欠かない。しかし、ここで考えるべきことは、小浜市の食によるまちづくり推進の仕方である。
「着眼大局 着手小局」。着眼点、すなわち最終目的は大きく持つ。しかし、実際に着手するにあたっては複数の小さなプロジェクトから始める。この手法は、まさに小浜市の食によるまちづくりの進め方そのものである。「御食国」の住民であるという「誇りを取り戻す」という大局を成し遂げるため、複数のプロジェクト、すなわちキッズキッチン、生き生きまちむらづくり、食のイベントなどを丁寧に実行していくことにより、更に大局も揺るぎないものになっていく循環の法則なのである。
これこそ、まちおこし理想の展開を示していると思われる。今回の、小浜市の研修で得たこの手法を、後のまちおこしに活用していただければ、きっと心強い見方になること間違いないと思いますよ。
そのために何をするのか?考えよう・・・感謝
是非、一緒に考えましょう。^-^