踏みしめて

 カメのように一歩一歩しっかり踏みしめて、前へ進んで生きたいな、と思ってます。

大学と地域の連携

大学と地域の連携

―地域は何を求められているのか―

 広島大学地域連携センター

 教授   塚本 俊明 氏



大学と地域の連携の意義と背景


 今、地域再生・都市再生の現場で大学に対する期待がこれまでになく高まっている。内閣府の地域再生本部においては、平成18年度に地域再生政策の柱の一つである「地域再生を担う人づくり、人材ネットワークづくり」の支援メニューとして「大学等と連携した地域再生の活動支援(地域の知の拠点再生プログラム)」が位置づけられた。また、都市再生本部においても、都市再生施策の柱の一つである都市再生プロジェクトの中で「大学と地域の連携による都市再生の推進」が位置づけられ、集中的な取組の体制が整えられた。地域再生・都市再生の現場では、大学に対して熱い眼差しが向けられていると言える。

 大学を核とする地域開発・地域振興については、これまでも全国各地で様々な取組が行われてきたが、近年の急速な少子化・高齢化、大都市と地方の格差の拡大とにより地方都市の中心市街地や中山間地域の農村集落等で地域を支える人材の枯渇が重大な問題となる中、地域を支える担い手としてNPO等と並んで大学・学生に対する期待が高まりつつある。

 一方、大学サイトでも、大学全入時代を迎え、多くの大学で入学定員の確保が困難となる中で、地域との様々なレベルでの関係を強めることで生き残りを賭ける大学が多くなっている。今後、多くの大学において地域社会への貢献、地域連携は避けて通れない重要な課題となると見込まれる。

 ただし、実際に具体的な成果が上がっているのはごく僅かであり、大半の大学・地域においては手探りの状態が続いている。そこには、大学・地域の双方にとって、「敷居が高くどのような形で関係を結んでいったらいいかわからない」という悩みがある。

東広島市における実践塾の開催経過


 今回の地域再生実践塾は、このような状況を踏まえて、具体的な局面での大学と地域の連携の状況や課題を体験することにより、それぞれの地域における取り組みの契機とすることを目的として企画したものである。

 実践塾の舞台となった東広島市は、昭和49年に広島大学の統合移転決定を受けて誕生し、統合移転の進展に併せて都市形成が進められてきた。移転決定から30年あまり、移転決定から約10年を経て、大学が地域形成に及ぼした効果や課題が明らかになるとともに、具体的な場面での連携が試みられるようになっている。

 実践塾においては、この経過をできる限り幅広い視点から理解することを目的として大学・地域双方の担当者・実践者から報告をお願いした。このうち、地元自治体である東広島市からは、広島大学の統合移転を契機とした学園都市開発計画がその後の地域開発の呼び水となり、大きな開発効果がもたらされたことが報告された。また、東広島市に立地する大学のうち、広島大学からは社会連携組織の現状と活動の課題について、近畿大学工学部からは同大学で実施している「東広島学」の取り組み等について、広島国際大学からは学生が主体となった地域連携活動の取り組みと課題について報告された。さらに、テーマに対する視野を広げる意味で、先進的な取り組みを実施している金沢大学の事例報告があり、「金沢学」の成果が疲労された。

 2日目にはグループワークとして、多様な連携の場面を体験できる2つのフィールドを用意した。1つは、「中心市街地の再生」をテーマに、既存商店街が衰退する中で、地場産業である酒造業を活かした地域の活性化の取り組みの一環として建築学科の学生が取り組んだ酒造の再整備提案について紹介した。2つ目は、「農地・里山の再生」をテーマに、農村地域において農家や地域の幼稚園、大学関係者が協働して展開している環境学習・環境保全活動について紹介した。

 それぞれのフィールドでは、実際に大学の教員・学生、地域住民がレクチャーすることにより、受講生が臨場感を持って大学と地域の連携の必要性や可能性について理解できたと思われる。その成果は、教員・学生も参加したワークショップを通じて、それぞれのフィールドにおける新たな連携プロジェクトの提案に結びついた。

 当然、短時間のワークで実現性の高い提案を期待することは難しい。しかし、今回の実践塾においては、社会的な背景、及び当事者による具体的な取り組みの双方を学ぶことにより、参加者それぞれのフィールドにおける取り組みの可能性や方向性についてヒントを得ることができたのではないかと考えている。

地域再生の担い手として


 大学移転の効果により都市の発展が続いている東広島市においても、中心市街地や農村集落では、高齢化の進展や若年者の流出によって地域の担い手が消滅するという事態が現実のものとなっている。このような状況の中で、時代の変化に対応しつつ地域の活力を維持していく上で、常に若い学生が流入する大学に対する期待は大きなものがある。

 しかし、全国的に見ても、大学と地域の連携が円滑に行われている事例は多くない。さらに、現状では地域との連携に積極的な学部・学科や研究室単位の取り組みが主体であり、地域サイドも商店街、TMOなど個別の組織が対応している事例が多い。

 今後、様々な地域において大学・地域の連携を推進していくために、大学サイドは研究室・学生等の個人的な努力に頼らない、組織としての取り組みが必要となろう。実践的な研究・人材育成の場として地域社会を位置づける発想の転換が求められる。

 一方、地域社会においては、地域を活性化する新しい「風」として、大学・学生を受け入れる度量が求められよう。これまでは、大学が地域に出て地域再生を先導していく事例が多かった。これからは、地域が大学を「使いこなしていく」したたかさと戦略性が求められよう。ここでいう地域は、大学の立地する自治体に限定されるものではない。様々な地域において、様々な大学との連携が生まれることを期待したい。今回の実践塾が、その契機となれば幸いである。

同じカテゴリー(まちづくり)の記事
そうだ!森町行こう
そうだ!森町行こう(2010-11-26 16:29)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
大学と地域の連携
    コメント(0)